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子宮筋腫の手術:筋腫核出術

子宮筋腫の手術療法としては子宮全摘術による根治手術と筋腫核出による保存手術があります。どちらの場合も腹腔鏡下手術で実施できます。粘膜下筋腫の場合は子宮鏡下手術が適用されますが、本日はお話を筋層内筋腫に限って腹腔鏡を利用した子宮筋腫核出術について、その適応、術式の実際、利点や問題点についてお話したいと思います。

まず適応ですが、子宮筋腫は生殖年齢にある女性の三分の一にあるといわれる位、頻度の高いもので、手術適応となるものは限られます。これはアプローチが開腹であろうが、腹腔鏡であろうが変わりません。筋腫による過多月経、月経困難症が主なものです。膀胱圧迫による頻尿、尿閉など腫瘍による圧迫症状も適応になります。

最近増加しているものに不妊症があります。この背景には妊娠、出産の高年齢化があるといえます。月経が始まる初経年齢が低下しエストロゲン依存性の子宮筋腫の好発年齢も低下傾向にある中、いざ妊娠しようという時に子宮筋腫が発見されることが大変増えてきているように思います。妊娠出産が子宮筋腫発生のリスクを下げるという報告もあります。したがって少子化や妊娠出産の高齢化がこの問題を大きくしているともいえます。

もちろん、子宮筋腫が必ずしも不妊症の原因になるとは限らず、筋腫をもったまま妊娠されるかたもあります。子宮筋腫合併妊娠はそれ自体の問題がありますが、今日は触れないことにします。他に不妊の原因がなく筋層内筋腫が不妊の原因と考えられる場合、核出手術の適応となります。

具体的な術式にまいりましょう。まず腹腔鏡スコープを挿入します。通常は臍の下部からいれて、腹腔内を観察します。腹腔内に癒着のある時はレーザー、超音波メス、または電気メスなどで剥離操作をおこないます。

視野を得て、筋層内筋腫の大きさ位置を確認します。表面に近いものは見ればわかりますが、やや深いものは鉗子を筋腫核部分にあてて筋層を介して触知します。腹腔鏡用に開発された超音波装置も役に立ちます。

手術操作の前処置として切開予定部位にピトレッシンの局注をおこないます。これにより筋腫周囲の血管を収縮させ、出血量の減少を図ります。また腫瘍と筋層の間に液体を浸潤させることにより、後の剥離操作を容易にするという意味もあります。

次に筋層の切開です。子宮はいろいろな方向に走る平滑筋からなりますが、輪状筋が強力なので、子宮の縦軸にたいして横方向に切開をいれます。電気メス、超音波メス、レーザーいずれでもかまいませんが、表面側の筋層を全層切開し、筋腫核の表面に確実に到達し、筋層と筋腫核を明瞭に分離することが大切です。創の長さは小さすぎると操作がやりにくいので筋腫核の大きさによって加減し、表面を十分露出することが肝心です。

剥離操作は腹腔鏡を接近させて、やや拡大した視野のもとで、把持鉗子で筋層を把持した上で、剥離鉗子を用いて筋腫核表面を露出します。ある程度剥離したところで、筋腫核自身を鉗子で操作コントロールします。工夫としてはミオームボーラーといってワインのコルク抜きに似た鉗子を筋腫核に差込筋腫核を縦横に操作し、筋層との剥離を補助します。拡大した視野の元でおこない小血管でもあれば焼灼した上で剥離操作をすれば、出血は最小限ですみます。

筋腫核を核出できましたら、剥離した筋層面からの出血を観察します。剥離操作時に注意深くおこなっていれば、大きな出血はありませんが、生理的食塩水で剥離面を洗浄し、小出血点をバイポーラー型電気メスや超音波メスで止血します。続いて縫合操作にはいります。あらかじめ止血しておいて、縫合は止血のためというより、層を合わせることに重点をおくことが大切だと思います。2-0程度の太さの吸収糸を使います。筋層をあわせた上で、ショウ膜面を欠損部位のな いよう縫合します。

一番大変なのが次におこなう筋腫の腹腔外への回収であるといえます。大きな筋腫核を1センチほどに細切して体腔外にだすのは手間がかかります。モセレーターといってリンゴの芯抜き器のような便利な器具が開発されて大分楽になりましたが、一番時間がかかる操作です。

今まで述べました術式は腹腔鏡下に全操作を行いlaparoscopic myomectomy(LM)と呼んでおります。子宮筋腫も大きくなると1kg、2kgにおよぶことがあります。筋腫の個数も10個、20個と多発することもあります。その場合にLMすなわち腹腔鏡下に手術を完遂することが困難な場合があります。その場合の対応として考案いたしましたのが laparoscopically-assisted myomectomy(LAM)であります。これはLM困難例に4cm程の小切開による小開腹を加えていわゆるハンドアシストの術式でおこなうものです。

LAMの利点はいくつかあります。まず小開腹創から指を腹腔内に挿入して筋腫を直接触知することができます。筋腫核の回収も4cm径の円筒状に切り出せば大きなものもそう時間をとりません。核出した創部の縫合も小開腹創から行えば通常の開腹時と同じ操作で容易に実行できます。

LMが困難な症例にLAMを実施するというバイアスがかかりますのでLMとLAMの手術侵襲の比較はそう簡単ではありません。術後入院日数ではLMが2日程度に対してLAMでは4日、社会復帰までの時間はLMが1-2週に対してLAMは2-3週ですが、開腹術の入院期間は1週間以上で社会復帰も1ヶ月以上と比べればいずれも 手術侵襲を軽減しているといえるでしょう。

ここでLM、LAMを含めた筋層内筋腫核出術の問題点や限界について考えていきましょう。術前の注意点で大切なのは筋腫の位置、大きさ、個数をあらかじめよく把握しておくことです。内診、超音波診断はもちろん、MRIによる評価も必須です。子宮内膜から筋腫核までの距離を知ることは手術時に重要な情報です。手術の難度も予測できます。LMの適用が困難でLAMが適当であると判断される場合もあります。

適用の限界はLMの場合大きさや個数が制約になります。1kg以上の筋腫核もLMで手術完遂が不可能ではありませんが、当然手術時間や出血量に影響がでて、患者さんへの侵襲という点で疑問が生じます。位置や大きさにもよりますが個数についても10個を超える場合LMは難度が高くなります。このような場合にLAMにより対応すれば従来の開腹は回避できます。逆に筋腫核出術への腹腔鏡下手術適用はLMとLAMを使い分けることによって限界をなくすことができると考えます。ただし他の腹腔鏡下手術と同様、腹腔内の所見や手術の進行状況等により、安全のために従来の開腹手術に移行する可能性はありえます。患者さんに開腹移行の理解してもらうことは腹腔鏡下手術のインフォームドコンセントの基本に変わりありません。

子宮筋腫核出術の腹腔鏡下手術は保険適用にもなり、実施する施設も増えてきました。核出術は機能温存手術ですからその成績は妊娠率や安全に出産できるかという面からも評価される必要があります。私どものLM、LAMを含めた腹腔鏡下筋腫核出後の妊娠率は以前の開腹術時代と比べて良好ですが、いわゆる生殖補助医療の進歩にもよるところがあり、腹腔鏡下手術がなぜ優れていて成績がいいかは、今後多施設の成績をあわせて検討する必要があるでしょう。

腹腔鏡下手術後に妊娠された帝王切開になった方の腹腔所見を見ますと、従来の開腹による核出術後によくみられた子宮と周囲組織の癒着がほとんどないことに気づきます。腹腔鏡下手術では術後の癒着が少ないのは定説になっていますので、これがLM、LAMの妊娠率が高いことの一因かと推定されます。

筋腫核出後の帝王切開の話がでましたが、筋腫核出術後の分娩様式が通常の経膣分娩でよいか、帝王切開にすべきかは昔から論議があったところです。子宮筋層に瘢痕部分があると分娩時の子宮破裂のリスクが高くなるからです。表層の筋腫であれば大きなものの核出後もいざという時に帝王切開ができる体制で、経膣分娩を試みて差し支えないでしょう。子宮内膜に近い大きな筋腫を核出したケースでは帝王切開が安全でしょう。その選択基準は開腹手術でも腹腔鏡下手術でも変わりませんが、手術所見が大切ですから、患者さんには十分説明し、分娩様式についても指示しておく必要があります。

最後に腹腔鏡下子宮筋腫核出術における一つの工夫をお話します。術前GnRHアゴニスト療法です。子宮筋腫はエストロゲン依存性疾患で閉経後には退縮します。GnRHアゴニスト投与には卵巣機能を停止させ働きがありますので、いわゆる偽閉経療法を術前薬物療法としておこなうことがあります。子宮筋腫の場合腫瘍径の縮小、筋腫核への血流の減少、筋腫核の正常筋層からの剥離操作の容易化等の効果があげられます。腹腔内の制限された空間の中では腫瘍の縮小は視野および操作性を向上させることは言うまでもないことで、手術の安全性、容易性を向上してくれることがご理解頂けると思います。投与期間は通常2-6カ月間ですが、その間に更年期症状などがでることもあり、注意が必要です。なおGnRHアゴニスト投与終了後、卵巣機能は回復しますが、同時に縮小した筋腫も再び大きくなるためアゴニスト自体に根治性はありません。

腹腔鏡下筋層内子宮筋腫核出術について述べてきました。その利点は、創が微小で従来の開腹手術を回避しながら、妊娠という子宮の大切な機能を開腹手術と同等かそれ以上に温存できることです。また術後疼痛が微小で鎮痛剤の使用も少なく、入院期間も開腹術に比べ短縮されます。入院費用の節減は医療経済上もメリットになると思われます。また当然のことながら早期社会復帰可能であり、個人にとっても社会にとっても大きな利点となります。腹腔鏡下手術の特徴すなわちスコープの適切な使用により骨盤内の死角は解消され、しかも拡大した術野で手術をおこない、より安全で精密な術式となり、術後の癒着が少ない点も妊孕性保存の面から大きなメリットとなると思います。ただし、特殊機器・器具を必要とし、腹腔鏡下手術に特異的な合併症もありうること、術式の修得には熟練を要し、そのためのトレーニングは本手術手技が安全に普及するためには最も重要な課題であることに留意しなければなりません。

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