女性の病気 | 子宮頚部がんと子宮体部がんについて

子宮がんケースレポート/妊娠とともに発見される子宮がん

「この子はあなたの命を救うために神様がこの世に送ってくれたんですよ」
「……」
「我々としては、あなたにとっておなかの中の命がどんなに大切なものかは理解できます。しかしあなたの命を一番に考えざるをえません」
「がんだけとって、子宮と赤ちゃんを残してください」
「円錐切除をして子宮頸部の病巣はとにかくとりましょう。がんの広がりによっては、それだけですまないことはご承知ください」
「……」

BさんとCさんはふたりとも30代。結婚して数年、ふだん規則正しい月経が遅れているので市販の診断薬で調べてみると陽性で、うまれてはじめて産婦人科 を受診しました。ふたりともそこでは妊娠の診断と同時に、思いもよらないことを告げられました。子宮がんの疑いがあるというのです。信じられない気持ち と、どうなるのだろうという不安を抱いて病院にみえました。

結婚年齢が上がるにつれて、当然出産年齢も上がり、不妊症も増える傾向にあります。一方で子宮がんの発生は若年化・低年齢化しているのも事実で、20 代、30代でがんができることもままあります。不妊治療中に子宮がんができてきたり、妊娠だと思ってはじめて産婦人科に行き、子宮がんを発見されるひとは 少なくありません。

妊娠中に子宮がんが発見された場合、妊娠を継続していいか、がんの治療をどうするかは、がんが診断された時期、進行期にもよります(注)。最終的には患者さんの意思も大事です。

病巣が子宮出口の表面のみにある、ごく初期の段階(0期)であれば、円錐切除(子宮頸部の病巣部分を円錐形に切除することをいいます。注)のみで妊娠継 続は可能です。子宮の中へ向かって進行が始まっている段階(Ia期)は円錐切除のみで妊娠継続という選択はありえるところ。子宮の中にも病巣ができ、進行 している場合(Ib期)はすみやかに子宮全摘し、卵巣とリンパ節を切除するというのが標準的です。

Bさんの場合は顕微鏡検査(病理検査)の結果、がんはそれほど広がっていず、Ia期と判断されました。もちろん安全を最優先すれば、はやく子宮全摘術を 受けた方がいいのですが、ご家族とも相談され、温存を選択されました。妊娠34週を過ぎ胎児が2000gを越えた時点で帝王切開と同時に子宮全摘手術を実 施、元気な赤ちゃんを得てがんの治療も終えることができました。

Cさんの場合は、恐れていたIb期で、がんの塊が4cm以上あり、円錐切除で完全に切除できたとはいい切れず、リンパ節への転移の可能性も高いと判断さ れました。ご本人は危険も承知で妊娠の継続も考えられました。がんの告知を受けるだけでも大変なのに、いまの赤ちゃんをあきらめる、もう子供を望めないと いうことは、受け入れがたいことでした。ご本人、ご主人に何度も治療の必要性をお話しし、やっとの思いで子宮全摘を選択していただきました。みんなにとっ てつらい選択でした。

子宮がんはいわゆる前がん状態や0期を経て数年の経過で発育します。おふたりの場合を含め、年に1度検診を受ければ未然に防げるだけに、がん検診の重要性を理解いただきたいものです。


[『授かる』(朝日出版社)平成16年10月30日刊行より引用]

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