腹腔鏡下手術 | 腹腔鏡下手術論

21世紀の腹腔鏡下手術

教育とトレーニング

腹腔鏡下手術は開腹手術同様に研修していく必要がある。東大産婦人科では従来婦人科手術の難度を1)卵巣嚢腫手術、2)開腹子宮筋腫手術、3)膣式子宮全摘手術、4)広範子宮全摘手術に分類し、各レベルを順次研修するシステムをとっていた。腹腔鏡下手術の実施は3次元の腹腔内を2次元のモニター上に投影しておこない、特殊な機器や機具の利用も不可欠である。従って技術の修得、向上には一般手術と同様あるいはそれ以上に充実した教育とトレーニングシステムが必要になる。当科においてはその手術手技を難易度により3段階に分類しレベルに応じた段階的な教育システムをとっている。各種婦人科疾患に対する腹腔鏡下手術術式を難度別に分類したものが表4である。従来おこなわれていた診断的腹腔鏡は手術難度としてはレベル0であるが、未経験の研修医は0より研修を開始する。またレベル4は現状では動物モデルなどによる研究段階で教育システムには含まれない。レベル1より助手、術者を経験してより難度の高い術式を研修していく。

表4.難易度からみた婦人科腹腔鏡下手術(東大産婦人科)

レベル 操作鉗子数 手術手技
0 0-1 診断的腹腔鏡(不妊検査、セカンドルック)
1 1-2 付属器切除 (卵巣嚢腫,外妊), 内膜症病巣焼灼, LAC(体腔外嚢腫核出),ドレリー手術, LUNA
2 2-3 LAVH (子宮筋腫), 子宮筋腫核出 (漿膜下), LC (体腔内嚢腫核出), 外妊保存手術, 癒着剥離
3 3-4 LH (内膜症合併例), 子宮筋腫核出 (筋層内),TLC (体腔内嚢腫核出), 高度癒着剥離, 造腟術

細径化によるデイサージャリー

腹腔鏡下手術の侵襲をより軽減する方向として腹腔鏡システムの細径化がある。本邦でも最近細径の腹腔鏡が利用できるようになった。レーザーや電気メスも利用可能で、切開・切断など相当の手術操作が実施できる。また我々の経験では術後の疼痛や回復までの日数は腹壁創部の大きさに比例する(図8)。開腹の場合1週後の抜糸後の経過をみて退院になるが、通常の10mm径腹腔鏡のもとで実施した手術の場合3日目には退院可能であった。細径システムで実施した場合は疼痛などの訴えはほぼなくなり術翌日の退院が可能になっている。また局所麻酔下の外来腹腔鏡の報告もある。この場合手術操作には限界があるが、術中の患者に問診ができるいわゆるpatient concious pain mappingも可能で骨盤痛の診断には革命的進歩がおこりつつあるといえる。いづれにせよ、腹腔鏡下手術システムのダウンサイジングはより侵襲のすくない腹腔鏡下手術への展開が期待され、minimally invasive surgeryにおける今後の課題の一つであると考える。

図8.開腹手術、腹腔鏡下手術の創の大きさと入院日数

テレサージャリー

「テレサージャリーという言葉があります。テレは遠隔、サージャリーは手術です。モニター画面に写る腹腔鏡下手術をテレビゲームに例えましたが、患者と術者が遠隔地にいればどうなるでしょう。南極いえもっと遠い惑星基地の患者さんのお腹を、アメリカと日本の医師がそれぞれの国で画面に向かい、手許のレバーでメスを操る共同作業で腹腔鏡下手術を進める。二十一世紀的電波手術とでも名付けられそうではありませんか。」(「生殖医療のすべて」)

悪性腫瘍

腹腔鏡はセカンドルックの目的で悪性腫瘍のフォローアップには従来より実施されていた(表5)。これに対して骨盤リンパ節ないし傍大動脈リンパ節切除や子宮癌の広範子宮全摘術への応用が報告されている。リンパ節生検によるステージングをおこない治療方針の決定に役立てるものから、治療的に骨盤および傍大動脈のリンパ節を切除するものまである。初期子宮癌および卵巣癌の手術に子宮全摘+リンパ節切除を腹腔鏡を適用したり、広範子宮全摘+リンパ節切除を進行子宮癌の根治手術に用いるという報告もある。この手術適応は難度も問題であるが、手術の完成度についても議論の余地を残していると考えられる。

表5.婦人科悪性腫瘍に対する腹腔鏡の適用

術式 目的・内容
セカンドルック フォローアップ中の腹腔内の検索 診断的であるが、精検も可
リンパ節生検 ステージングによる治療方針の決定
リンパ節切除 骨盤および傍大動脈のリンパ節を切除 後腹膜アプローチも有
子宮全摘+リンパ節切除 初期子宮癌および卵巣癌の手術
広範子宮全摘+リンパ節切除 進行子宮癌の根治手術 膣式手術も併用

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