妊娠と出産 | 排卵誘発について

排卵誘発とその副作用について

排卵誘発法について

排卵誘発剤は卵巣を刺激してより良い排卵を起こし、卵巣機能を高める薬剤です。卵巣機能が不調で排卵しにくい人に排卵を起こさせる目的と体外受精において良好な卵子を多数得る目的で使用され、今日の生殖医療には欠くことのできない薬剤です。
普段は卵胞は一個しか発育しないような仕組みが働いているのですが、排卵誘発剤を使った場合、種類によっては複数個の卵胞が発育し、排卵されることがあります。クロミフェン(クロミッド)は間接的で一個の排卵機構が働きますが、FSH製剤(注射)は直接卵巣を刺激しますので、複数個が発育し排卵されることがあります。従って治療中は適切に薬剤量を調節し、副作用の監視と予防が必要です。
注:排卵誘発剤の種類

(1)クロミッド

通常月経開始より3-5日目から5日間内服します。これは脳に働いて下垂体からのLH、FSHの分泌を促し、間接的に卵胞発育を刺激するものです。卵巣 を直接刺激するFSH製剤よりは作用は弱く、副作用も軽度です。クロミッドは何周期も連続して使用すると頚管粘液の量が減少するなど抗エストロゲン作用が 生じることがあります。排卵しても、高温期が短い黄体機能不全や5、6周期治療しても妊娠に至らない場合はFSH製剤への変更する等、治療方針を再検討し ます。

(2)FSH製剤

卵胞を育てる脳下垂体ホルモンFSHと同じ作用を持つ薬剤を筋肉注射する方法です。クロミッドに無効な方に使用されます。75単位と150単位の2種類があります。後に述べる卵巣過剰刺激症候群を惹起する可能性があり超音波によるモニターが必要になります。


卵巣過剰刺激症候群(OHSS)について

排卵誘発剤の使用に際する大きなリスクのひとつが卵巣過剰刺激症候群です。
先に述べましたように、普段は卵胞は一個しか発育しないような仕組みが働いているのですが、排卵誘発剤(FSH製剤)で卵巣を刺激した時は多数の卵胞が 発育して卵巣過剰刺激症候群になりやすい状態になります。卵巣過剰刺激症候群の予防のために排卵誘発剤の使用量には注意をはらって、排卵誘発中には卵胞の 大きさを超音波でモニターします。FSH製剤は人により感受性が異なりますのが、安全のため最初は75単位で開始し、反応をみながら量や期間を加減します。
どうして起こるかのメカニズムははっきりわかっていませんが、高くなったhCGやエストロゲンのホルモンの働きでプロスタグランジンという物質が過剰に 産生され、その作用で血清成分が卵胞のなかに漏れだすことに関係すると考えられます。多数の卵胞のなかに血清成分がたまり、卵巣が非常に大きくなってしま います。安静だけで改善する場合もありますが、入院管理が必要なことがあります。きわめて重症の場合は胸水や腹水がたまり、腹痛、呼吸困難の症状を起こす ことまであります。
三十年前からFSH製剤はあり、卵巣過剰刺激症候群も起こることはありましたが、ひどい血液濃縮や電解質異常をきたして、血栓症を起こし、生命にかかわ ることはほとんどありませんでした。昔から欧米の教科書には記載がありましたが、人種差があり、日本人には起こりにくいものかと思っていました。最近は生 活の欧米化等の影響もあるのでしょうか、卵巣過剰刺激症候群に限らず血栓症は稀な病気ではなくなり、用心が肝心です。
卵巣過剰刺激症候群の予防のために排卵誘発剤の使用量には注意をはらっており、排卵誘発中には卵胞の大きさを超音波でモニターしています。患者さんは、 排卵誘発中に下腹部不快感、ふくらんだ感じ、下腹部痛があった時には来院し、超音波検査等を受けてもらいます。重篤な副作用を防ぐためには、少し早めに hCGに切り替えたり、場合によってはhCG投与を断念します。せっかく卵胞を発育させて中断するのは、残念至極ですが、健康を損なうことに対する医師、 患者双方の理解が大切です。


多胎妊娠とそのリスクについて

双胎(ふたご)は自然でも約1%程起こりますが、排卵誘発剤を使用すると卵胞が複数個発育するため、複数個の卵子が排卵され、その結果双胎を含めた多胎 妊娠の発生率は高くなることが知られています。不妊症方で排卵誘発剤による治療で妊娠し、超音波で双胎妊娠(ふたご)であることが分かりますと、患者さん はたいていは笑顔で喜んでくれますが、担当医はそうはいきません。稀なことですが品胎(みつご)となると大変です。次に述べる母児の健康にも問題ですが、 いっぺんに三人の子どもが増えるのは生活設計にも大きな影響を与えます。
多胎の場合の早産率および出生児体重の平均値をそれぞれ図1に示しました。胎児数の増加につれ早産率が増加し、逆に赤ちゃんの平均体重は減少することが 分かります。母体には妊娠中毒症、切迫早産、羊水過多等による肉体的負担が増し、妊娠継続自体が難しくなることが多く、胎児にとっては早産、低出生体重に よる周産期死亡の危険があります。そのため妊娠中期からは入院して管理が必要となり、品胎分娩は帝王切開となります。

多胎妊娠の防止のために先に述べたように卵胞数を超音波でモニターし、排卵誘発剤の使用を加減し、やむおえない時は排卵誘発を中止することもあります。 体外受精にあたっては良好な胚が多数得られても子宮に戻す数を三個以内に制限し、特に品胎以上を発生させないよう努力していますが、完全に多胎妊娠を防ぐ ことはできないのが現状です。


図1.胎児数に増加に伴い早産率は上昇する。逆に出生時の児の体重は減少する。
(日本産科婦人科学会報告による)


その他関連事項について

排卵の予知法
卵子が受精できるのは排卵後約一日、精子に受精能があるのは射精後約3日間です。妊娠が成立するためにはこの期間に精子と卵が出会わなければなりませ ん。したがって、排卵のタイミングを知ることは治療の基本となります。排卵因子の治療の一つとして考えることができます。具体的には次のような方法があり ます。

(1)基礎体温上での低温相から高温相への転換日

排卵すると卵胞が黄体に変化しプロゲステロン分泌が始まり、プロゲステロンの体温上昇作用で基礎体温も上がるのです。毎月、月経開始から14日目に高温になる方は13日目の夜に排卵するとわかります。月経周期が不安定な方では不正確となります。

(2)頚管粘液が多くなる。

頚管粘液エストロゲンの働きで増加し、排卵前には無色透明のおりものが多くなります。

(3)経腟超音波検査による卵胞計測

発育中の卵胞の直径を計測することにより排卵日を推測することができます。18から20ミリになれば排卵が近いと判断します。自然の排卵を待つ場合と、hCG投与を行う場合があります。

(4)尿中LHサージを検出する方法(ゴールドサインLHキット等)

卵胞が発育してエストロゲンが高まると、それに反応して脳下垂体からLHが大量に分泌され、排卵の引き金となります(LHサージ)。LHサージの開始より36-42時間後、LHサージのピークより約17時間後に排卵します。これまで述べた方法よりも正確です。  1日1回早朝の尿を用いて検査キットによりLHサージの出現を調べます。赤いスポットが濃く出現したらその夜が妊娠のチャンスです。必ずしも濃いスポットが出るとは限りません。スポットが薄く出現した時は、その夜または翌日の夜に性交を持つようにします。排卵後はスポットは消失します。

(5)血液中エストロゲンの測定

卵胞が十分発育すると卵胞ホルモンエストロゲンの分泌が高まります。通常100を超えると排卵が近いとわかります。ただし排卵誘発剤を使用している時は複数の卵胞からエストロゲンが分泌されるため数百になることがまれでありません。

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